年度が替わり新しい業務に着任する方も多いと思いますが、車両管理業務で必要になるのが「安全運転管理者」です。なんとなく何をすればよいかはわかっているものの、実際にどういった制度なのか知らない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では安全運転管理者制度とその目的・業務内容についてご紹介します。

安全運転管理者制度とは

安全運転管理者制度は、日本において自動車の使用者が道路交通法第74条の3の規定に基づき、自家用自動車(いわゆる「白ナンバー」)を一定台数以上使用している事業所において、安全運転管理者や副安全運転管理者(以下「安全運転管理者等」といいます)を選任し、事業所における安全運転の確保を図るための制度です。届出はオンラインでも申請ができるようになっています。

昭和40年(1965年)に道路交通法の一部改正により、安全運転管理者制度が制定されました。この制度は、自動車の使用者に対し、使用の本拠ごとに自動車の安全な運転に必要な業務を行う責任者として安全運転管理者を選任し、公安委員会に届け出させることを目的としています。
当時交通事故の発生件数は年々増加しており社会問題となっていました。昭和23年には交通事故件数が2万件を超える程度であったのが、昭和27年には5万件を突破し昭和31年には10万件を突破。
昭和34年には20万件、翌昭和35年には40万件、昭和38年にはついに50万件を超えるなど、非常にハイペースで事故が増加していたのです。昭和34年からは10万人当たりの死者数が10人を超えるなど、社会全体で対応しなければならない課題となっていたのです。

その後大きな改正もなかったのですが、2022年に改正があり、違反行為に対する罰則が厳罰化されました。具体的には、選任義務違反や解任命令違反、是正措置命令違反に対する罰金が引き上げられました。
これは2021年6月に千葉県八街市において発生した児童5人死傷事故を契機としています。白ナンバーのアルコールチェック義務化と連動した話になりますが、事故をおこした運転手は、その当時酒気帯びの状態でした。しかも事故を起こしたときだけではなく、常習的に飲酒していたことがクローズアップされました。
また既にアルコールチェックを義務付けられている緑ナンバーではなく白ナンバーの車両であったことから、白ナンバー車両を運転する運転手にもアルコールチェックを義務付ける法改正へつながりました。
さらにひどいことに、この時事故を起こしたドライバーの勤務先企業は、安全運転管理者の選任義務の対象であるにも関わらず選任を怠っていました。業務へのチェック体制がない企業への責任が問われる事態となり、安全運転確保の観点から、安全運転管理者の責任があらためてフィーチャーされることになったのです。改正により罰金は最大で10倍に増額され、是正措置命令違反に対する罰則も新設されました。

安全運転管理者の業務内容

安全運転管理者は、一定以上の台数の自家用自動車(白ナンバー)を保有する事業所において、運行計画や運転日誌の作成、安全運転の指導を行う責任者で、年に一度の講習参加が義務付けられています。副安全運転管理者は、安全運転管理者の業務を補助する役割を担います。なお事業用自動車(緑ナンバー)については、別途運行管理者制度が存在します。

安全運転管理者等の要件としては、20歳以上(副安全運転管理者を選任する場合は30歳以上)であることが必要です。また、運転管理に関する実務経験が2年以上(運転管理に関する公安委員会が行う教習を修了した者は1年)という要件もあります。
欠格事項としては過去2年以内に公安委員会から解任命令を受けていない者、過去2年に特定の違反行為をしていない者(例:ひき逃げ、酒気帯び運転、無免許運転など)となります。事業用自動車を使用する事業所は、道路運送法や貨物自動車運送事業法によって「運行管理者」が選任されることから、安全運転管理者を選任しなくても良いことになっていますが、交通安全の観点から選任されることもあります。
選任や変更があった際は、速やかに公安委員会に届け出る必要があります。
解任に対しても要件があり、以下の通りとなります。
・自動車の台数が基準以下になった場合。
・事業所が別の警察署管内に移転、または事業所が閉鎖することになった場合。
・安全運転管理者や副安全運転管理者が資格要件を備えなくなった場合。
・公安委員会から解任命令を受けた場合。

安全運転管理者の主な業務は次のとおりです:
・運転者のコンディションを把握し、必要に応じて指示を出す(例:点呼など)。
・運転者の酒気帯びの有無を確認し、記録・保存する。
・運転日誌の備え付け・記録を行う。
・安全運転を確保するための運行スケジュールを作成する。
・交通安全教育、運転者に対する安全運転指導を行う。
・長距離、夜間運転時の交代要員を配置する。
・異常気象時などの安全確保の措置を取る。

海外の安全運転に対する取り組み

参考までに、日本以外の外国において安全運転管理者制度のような制度はあるのでしょうか。
例えばアメリカにはCDL(Commercial Driver’s License)制度があり、商用ドライバー向けの免許制度で、運転者の健康状態や運転スキルを厳格に評価します。ライセンスのタイプは3種類で、クラスA~クラスCに分かれます。
アメリカ自体が広大な国であり州の数も多く、かつ州ごとに交通法規が異なるため、会社というよりもドライバーに対してライセンスを発行する形をとっているようです。
ちなみにアメリカでは毎年4万人が交通事故で命を落としています(日本は2,600人ほど)。
なおアメリカ合衆国運輸省には連邦自動車運送業者安全局:FMCSA(Federal Motor Carrier Safety Administration)が存在し、商用車の安全性と運転者の健康を監督しています。

日本ではそこまで知られていませんが、アメリカではアルコール・インターロックに関する法制度が進んでいます。アルコール・インターロック装置とは車のエンジン始動時に、ドライバーの呼気中のアルコール濃度を計測して、規定値以上の場合に車を指導できないようにする装置のことです。
アメリカのみならず欧州でも一般的な装置で、飲酒運転違反者に設置や免許更新の限定を義務づけることで、まずは一番違反リスクの高い人から始めることで効果を最大化させることを目的としています。
日本の安全運転管理者制度のような法制度とは異なりますが、事故削減を目的に実効性の高い別の法制度が整備されているようです。

出典:
警視庁HP
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzenuntenkanrisya/pdf/seido.pdf
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/index-2.html
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzenuntenkanrisya/index.html
https://www.npa.go.jp/hakusyo/h17/hakusho/h17/html/G1010000.html
一般財団法人全日本交通安全協会
https://www.jtsa.or.jp/about/about_history.html