近年、eコマースの急速な成長に伴い、物流業界は大きな変革期を迎えています。
物流は国民の経済活動を支える重要な社会インフラとなっていますが、物流環境は悪化の一途をたどっています。
ドライバーの高齢化による労働人口の減少や、2024年問題に代表される労働時間の上限規制による長期輸送の減少などで、今までと同じ形での物流システムを存続させることは難しくなってきているのです。
さらに、都市部では駐車場所の確保が大きな問題となっており、配送車やドライバーへの負担が問題となっています。
本記事では、日本における貨物集配車両の駐車規制緩和の現状と課題、そして今後の展望について詳しく見ていきます。

日本の物流事情と駐車規制の現状

日本のEC市場は、2021年に約20兆円、2022年には約23兆円の規模に達しました。2025年には30兆円を超えるとの予測もあります。BtoBのEC市場で言えば2021年では372兆円の市場規模となっています。
この急激な成長は、都市部を中心とした配送需要の爆発的な増加をもたらしました。

一方で、日本の都市部、特に東京や大阪などの大都市圏では、慢性的な駐車スペース不足に悩まされています。狭い道路、高密度な建築物、そして限られた土地利用が、この問題をさらに深刻化させています。
2021年に警察庁が実施した調査によると、東京都特別区における瞬間路上駐車台数は約4万7,000台(前年比約1.6%増加)という数値となります。
2005年から比較すると、違法駐車は一貫して減少傾向にあるものの、依然として幹線道路等における交通渋滞の要因となっているほか、駐車車両への衝突事故や駐車車両に起因する交通事故が後を絶たず、道路交通への著しい障害となっています。

日本の道路交通法では、貨物集配車両を含む一般車両の路上駐車は厳しく制限されています。違法駐車に対する罰則も強化され、ドライバーや運送会社にとって大きな負担となっています。
国では駐車規制については、より合理的なものとなるようきめ細かな見直しを推進しており、2004年(平成16年)から2023年(令和5年)までの間に、全国において4万6,482区間(約3万4,598km)にわたる駐車規制の解除・緩和を図っています。
今後も、必要やむを得ない駐車需要への対応が十分でない場所を中心に、地方公共団体、道路管理者、関係事業者等による自主的な取組を働き掛けるとともに、以下の点に留意して、交通実態の変化に即した駐車規制を推進することとしています。

一部の自治体では、貨物集配車両向けのパーキング・パーミット制度を導入しています。この制度では、事前に登録された車両に対して、特定の時間帯や場所での駐車を許可しています。
また、都市計画の一環として、主要な商業地域や住宅密集地に荷捌きスペースを設置する取り組みや、早朝や深夜など交通量の少ない時間帯に限定して、貨物集配車両の駐車規制を緩和する試みも進められています。

駐車規制緩和がもたらす影響

駐車規制の緩和は、ドライバーの心理的・経済的負担を大きく軽減する可能性があります。違法駐車のリスクを気にせずに配送業務に集中できることで、作業効率の向上も期待できます。
現場では法令遵守に向けて、配送員の他に1名を追加して駐車違反区域で5分以内に荷下ろしを完了させられるような対応を行ったりする事業者もいます。
また、駐車可能な場所が現場から遠く、ドライバーが何回も商品を搬送しなければならないといったことも起きています。
これらを解決するには各運送会社の取り組みでは限界があるため、行政の働きによる駐車規制の緩和が求められています。

さらに、適切な駐車スペースの確保は、配送ルートの最適化や積載効率の向上につながります。これにより、1台あたりの配送量が増加し、全体的な車両数の削減も可能になるかもしれません。
現在の「貨物車専用」と表示された路面標示を増加させることが駐車規制の見直し対応の中心ですが、都心部ではまだまだスペースが狭い・小さいことで使用できない事例が散見されます。
ドライバーにヒアリングした結果、貨物車専用スペースを使用しない理由として、「ほぼ空いていない」と回答した割合が高いことがわかりました。
単純な貨物車専用スペースの増加だけでは物流業界の配送状況から鑑みるにまだまだ対応しきれていないのが現状といえます。

解決策と今後の展望

それではどのような施策を進めていくと、駐車スペース確保と配送効率を両立させ、物流インフラを機能させられるのでしょうか。
考えられる貨物集配車両の駐車問題に対する解決策を以下にまとめてみます。
1)テクノロジーの活用:
・駐車場シェアリングプラットフォームの導入
・AIを活用した配送ルート最適化システムの開発
・リアルタイムの駐車場空き情報提供システムの構築

2)インフラ整備と都市計画:
・マルチステークホルダーアプローチによる地域特性に合わせた駐車スペース確保
・複合型施設の開発(商業施設や住宅と一体化した物流施設の設計)
・既存の都市インフラを活用した小規模物流拠点の整備

3)法制度の見直し:
・貨物集配車両に特化した柔軟な駐車許可制度の導入
・短時間駐車や荷物の積み下ろし時の一時停車を認める特例措置の検討
・グリーン物流推進のための環境配慮型車両への優遇措置

4)官民連携の強化:
・地域協議会の設立による官民一体となった駐車スペース整備計画の推進
・物流事業者と地域商店街との協力体制構築

5)環境に配慮した配送手段の推進:
・電気自動車や自転車配送など、環境負荷の低い配送手段の導入支援
・ラストワンマイル配送における小型モビリティの活用

これらの解決策を組み合わせ、各地域の特性に合わせて柔軟に適用していくことが重要です。また、デジタル技術の進化や社会のニーズの変化に応じて、継続的に施策を見直し、改善していく必要があります。

現在日本の物流システムは大きな転換点を迎えています。物流の駐車規制緩和は、その重要な一歩となりえます。
そのためには官民が一体となって知恵を絞り、技術を駆使し、そして何より現場の声に耳を傾けながら、持続可能で効率的な物流システムの構築に向けて、一歩ずつ前進していく必要があります。
物流業界に属する方以外ですと、なかなか普段意識することもないと思いますが、物流システムは私たちの生活に密着しているものです。
地震など大きな災害の時には、物流が一人一人の生活を支えるインフラということを改めて認識することもあるかと思います。
2024年問題や駐車規制の話についても、静かな物流インフラの危機だと思って、これからの方針を考えてみるのもよいかもしれません。

こちらのブログで「2024年問題」についてご紹介していますので、よろしければこちらの記事もご覧ください。

イマサラだけど、2024年問題って何?

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▽出典
[1] 株式会社NTTデータ経営研究所, “令和3年度 電子商取引に関する市場調査”, 2022.
[2] 警察庁交通局, “駐車規制の見直し状況について”, 2023. https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/kisei/tyuusya/202311parking.pdf
[3] 内閣官房, “地方における規制改革タスクフォース ワーキンググループ(第10回)資料1 地方からの提案に基づく取組の検討状況”, 2024.
https://www8.cao.go.jp/kiseikaikaku/kisei/meeting/wg/2310_05local/240216/local01_01.pdf