2024年問題で大揺れする物流業界ですが、タクシー事業者や貸切バス事業者らといった貨物運送業でも大きな波が来ているのをご存じでしょうか。
2023年6月30日から、国土交通省では貨客混載事業を全国で解禁しました。これによりトラック事業者による旅客運送業も、全国で行うことができるようになりました。
貨客混載とは、乗客と荷物の輸送・運行を一緒に行う取組みです。人を運ぶ旅客事業のうち、一部のスペースを荷物の運搬に利用します。

深刻化するドライバー不足や物流需要の高まりを背景に、荷物の運搬と人の移動を同時に行う貨客混載が、今注目を集めています。

日本における貨客混載の現状と問題点

日本の物流業界では、ドライバー不足が深刻な状況が続いています。2023年時点で、物流事業者が必要とするドライバー数と実際の有効求人数の差は10万人以上にも上るといわれています。
トラックドライバーは2006年の92万人をピークに年々減少しており、有効求人倍率は2.68倍と、全産業と比較しても高い水準となっています。
こうしたドライバー不足に加え、2020年以降の巣ごもり需要の高まりにより、ラストワンマイル配送などの貨物輸送が急増しました。今ではラストワンマイル物流市場の規模は3兆円になると推計されています。
配達ロボットやドローンといった新しいアプローチも実証実験段階で、今のところ有効な解決策になりえていないため、「貨客混載」が当面の対応策として広がりを見せているのです。

それでは貨客混載のメリットとデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
まず、貨客混載には以下のようなメリットが考えられます。
1移動手段の確保
地方部を中心に、公共交通機関の利便性が低下する地域が増えています。そのような地域において、貨客混載は重要な移動手段の選択肢となります。ドライバー不足が深刻化する中、物流事業者のトラックを活用することで、高齢者や交通弱者の移動ニーズに応えられるのです。
単独で人の移動を行うよりも、既存の物流ネットワークを活用できるため、運営コストの抑制にもつながります。公的支援を得ながら、持続可能な移動サービスを提供することが可能となります。

2物流の効率化
貨客混載では、人の移動と荷物の輸送を同時に行うことで、輸送効率の向上を図れます。 例えば、ドライバーが空荷で移動する際に、出張者や地域住民の移動ニーズに応えられるなど、車両の有効活用につなげられます。 さらに、ラストマイル配送の効率化にも貢献し、物流全体の生産性向上が期待できるのです。
また、地方部における過疎化が進む中、貨客混載は地域の足として、重要な役割を果たすことも可能です。
地域住民の移動手段を確保しつつ、物流の効率を高められれば、地域社会の維持にもつながるでしょう。

3新たな収益源の確保
物流事業者にとって、貨客混載は新しい収益源を生み出す機会にもなります。 人の移動サービスの提供を通じて、顧客層の拡大や、付加価値の向上が期待できるのです。 地域に根差したサービスの展開により、ブランド力の向上や、競争優位性の確保にもつながる可能性があります。
加えて、自治体や公的機関との連携によって、補助金やインセンティブの獲得なども期待できます。地域課題の解決に貢献することで、物流事業者の社会的評価の向上にもつなげられるのです。

一方で、貨客混載には以下のようなデメリットも存在します。
1安全性の低下
貨客混載では、荷物の輸送と人の移動が同時に行われるため、安全性の確保が大きな課題となります。 例えば、ドライバーの注意力の散漫や、急ブレーキの難しさなど、事故リスクが高まる可能性があります。 また、車両の構造上の問題から、乗客の安全性も十分に担保できないケースも指摘されています。
さらに、貨客混載に関する法制度が十分に整備されていないことも、安全性の懸念につながっています。事故発生時の責任の所在や、保険適用範囲の明確化など、制度面での整備が急務となっています。

2輸送効率の低下
貨客混載では、貨物の積載スペースが人の乗車によって制限されるため、輸送効率の低下を招きます。 同時に、人の移動ニーズに合わせた迂回や停車が発生するため、物流全体の生産性が阻害される可能性があります。 特に、時間に制約のある食品や医薬品の輸送など、高い配送精度が求められる分野では、大きな影響が懸念されます。
加えて、人の移動と貨物輸送の両立は、ドライバーの業務負荷の増大にもつながります。
集中力の低下や疲労の蓄積から、事故リスクの高まりにもつながりかねません。

3利用者の不満
一般の利用者から見れば、貨客混載は不便で不安なサービスとして受け止められがちです。 荷物の扱いへの不安感や、混雑による移動の遅延など、利用者の満足度は必ずしも高くありません。 地方部の高齢者などの交通弱者にとっては重要な移動手段となる一方で、都市部の一般利用者には受け入れにくい面もあるのが実情です。
また、ドライバーの態度や、車内の環境など、サービスの質的な面でも課題が指摘されています。利用者の期待に応えられるサービスレベルの確保が、貨客混載の普及には不可欠です。

海外の物流業界における貨客混載の取り組み

物流・配送の問題は当然日本だけでなく、欧米やアジアの国々でも発生しており、それぞれ貨客混載に取り組んでいます。各国でのさまざまな対応策を見ていくことで、その取り組みから学べる点も多数あるかと思います。
国土交通省の出している、「新たなモビリティに関する近年の状況について」という資料では、貨客混載に関して海外の2つの事例が紹介されています。
1)貨物の輸送密度が極端に低い山岳地域を抱えるスイスやオーストリア、ドイツ等の欧州諸国では、各国の郵便事業者であるスイスポスト等が旅客運送と貨物運送を組み合わせた「ポストバス」サービスを長年にわたり運用しています。これにより集配輸送ネットワークや拠点間輸送網の維持に貢献しています。
2)米Amazon社では、2014年に米国サンフランシスコ等のエリアで、配車サービスアプリを使って同社の物流センターにタクシーを手配し、荷物を運送する実証実験を実施しています。
また、東南アジアでは「貨客混載」「客貨混載」は一般的な取り組みとして浸透しています。どちらかというとバス会社による貨物輸送がメインのようです。

今後に向けた解決策

物流業界における貨客混載への取り組みをより効果的・継続的なものとするためには、以下のような施策を組み合わせていくとよいのではないでしょうか。

1政治的観点からの取り組み
ドライバー不足への対応として期待される貨客混載ですが、その実現には、政治的な支援が不可欠です。特に、安全性の確保や法制度の整備といった課題に対して、行政の果たす役割は大きいと言えます。
保険制度の整備や、運転手の雇用形態、責任の所在など、考えるべきことは多岐にわたっています。政府が主導して、関連法規の整備を進めることが求められます。
また、地方自治体の役割も大きいでしょう。過疎化が進む地域における移動手段の確保は喫緊の課題であり、自治体が主体となって貨客混載の普及を支援することが重要です。
例えば、補助金制度の創設や、公的施設の活用など、事業者への支援策を講じることで、持続可能なサービスの提供を後押しできます。
さらに、地域住民への広報活動を通じて、貨客混載への理解を深めていくことも重要です。

このように、政府や自治体が中心となって、安全性の確保と法制度の整備、地域課題への対応など、総合的な取り組みを展開することが、貨客混載の発展には不可欠でしょう。
間もなく規制緩和から丸1年が経過しますが、この1年間でどのような効果があったのか、結果をしっかりと検証することが求められています。

2経済的観点からの取り組み
物流事業者にとっては、貨客混載を行うことで新たな収益源の確保が期待されますが、投資資金の確保が課題となります。
人を運ぶのとモノを運ぶのでは、扱う品目が増えるといった単純な考え方では不十分なのは言うまでもありません。お客様に求められるサービスとしての貨客混載の実現には、車両の改修や、動態管理システムの導入など、一定の初期投資が必要となってくるでしょう。
特に、中小の物流事業者にとっては、この初期投資負担が大きな障壁となる可能性があります。そのため、金融機関や公的機関による支援策の充実が重要です。低利子融資制度の創設や、補助金制度の拡充など、事業者の参入を後押しするための施策が求められます。
また、貨客混載の事業性を高めるためには、荷主企業との連携強化も欠かせません。
配送時間の調整や、ドライバーの待遇改善など、関係者全体で課題解決に取り組むことも必要になるでしょう。

3技術的観点からの取り組み
貨客混載の実現には、技術的な対応も欠かせません。特に、安全性の確保と、効率性の向上が重要なポイントとなります。なぜなら物流の配送システムと旅客運送システムは似て非なるサービスだからです。
まず、安全性の確保に向けては、動態管理システムの活用が重要です。
ドライバーの位置情報や、荷物の積み下ろしの状況をリアルタイムで把握することで、急ブレーキの検知や、安全運転の支援などが可能になります。
今ではAI技術を用いたドライブレコーダーなどもあり、ドライバーの状況に応じた危険度を可視化できるようになっています。
また、走行履歴のデータを分析することで、最適な配送計画の立案や、無駄な待ち時間の削減が可能となります。
サービスによっては配送ルートの最適化や荷役作業の支援など、ドライバーの生産性向上に貢献するソリューションもありますから、自社の状況に合わせたサービスを選ぶことで、より効果的な業務運営ができるようになるでしょう。

KITAROでは動態管理サービスを提供する企業としても、これらの取り組みに積極的に関与し、物流業界全体の課題解決に貢献していきたいと考えています。
気になった方はぜひKITAROサービスサイトまでお問い合わせください。