1. 運行管理者が強いられる不規則な勤務
物流・運送業界において、長年聖域とされてきたのが、運行管理者による対面点呼の原則です。ドライバーが安全に乗務できる状態にあるか、酒気を帯びていないか、顔色や声の調子に異常はないか。これらを管理者が直接、自身の目と耳で確認する行為は、輸送安全の最後の砦として機能してきました。
しかし、2024年問題以降の労働環境の変化、そして深刻な人手不足という荒波の中で、この対面・常駐という原則が、現場の首を絞める最大の要因となっています。

具体的に、運行管理者の日常を思い描いてみましょう。
早朝4時に出庫するドライバーがいれば、その1時間前には営業所を開け、点呼の準備を整えて待機しなければなりません。一方で、深夜2時に帰庫するドライバーがいれば、その報告を受けるために誰かが事務所に残っている必要があります。24時間体制で車両が動く現場では、管理者は宿直や極端な早出・残業を強いられ、その勤務形態はドライバー以上に不規則になりがちです。
こうした過酷な勤務実態は、二つの深刻なリスクを招いています。
一つめは、管理者の心身の疲弊による、点呼の形骸化です。睡魔や疲労と戦いながら行う点呼では、本来見抜くべきドライバーの小さな異変を見落とすリスクが高まります。
もう一つは運行管理者の採用難と離職リスクです。若手の人材が不足する中、夜討ち朝駆けの勤務が前提となる運行管理の仕事は敬遠されやすく、ベテラン管理者の退職がそのまま営業所の閉鎖リスクに直結するという、極めて危うい経営状態にある企業が少なくありません。

現在では、国は人に依存しすぎた安全管理の限界を認め、テクノロジーの活用による代替を強く推進しています。これまではGマーク(安全性優良事業所)を持つ一部の優良企業にのみ許されていたIT点呼の枠組みが、2022年の遠隔点呼制度の新設によって、より多くの事業者へと開放されました。
これは楽をするためのツールの導入促進ではなく、管理者を営業所という場所と、早朝深夜という時間の拘束から解放し、持続可能な運行管理体制を再構築するための施策です。
点呼をデジタル化し、遠隔地からでも対面と同等、あるいはそれ以上の精度で実施できる環境を整えること。それこそが現在の物流経営における最優先事項と言っても過言ではありません。

2. 混同しやすいIT点呼と遠隔点呼の違い
カメラ越しに点呼を行うという点ではどちらも同じように見えますが、実務上、この二つは適用できる範囲と求められる施設のハードルにおいて決定的な違いがあります。
自社の営業所がどちらの制度を選択すべきか、あるいは併用すべきかを判断するために、その構造的な差異を正しく理解しておく必要があります。
○IT点呼
IT点呼は、古くからある制度であり、主に同一事業者内の拠点間をネットワークで結ぶことを前提としています。
原則として、IT点呼を実施する営業所は、安全性優良事業所(Gマーク)の認定を受けていることが条件となります。これは、基本的な安全管理体制が構築されている企業に対してのみ、特例として対面以外の点呼を認めるという国のスタンスの表れです。

例えば、A営業所の運行管理者が、少し離れた場所にあるB車庫から出庫するドライバーに対して、モニター越しに点呼を行うケースです。あるいは、夜間・早朝に運行管理者が不在となる小規模なC営業所の点呼を、2024時間体制の基幹営業所であるA営業所が「代行」する場合などに活用されます。
あくまで拠点と拠点を結ぶものであるため、ドライバーが宿泊先や遠隔地の路上にいる場合には、基本的には適用されません(その場合は電話等による「中間点呼」などの扱いになります)。

○遠隔点呼
2022年4月に新設された遠隔点呼は、IT点呼の使い勝手の悪さを解消するために生まれた、より進化した制度です。新規導入を検討する企業の多くがこちらを本命視しています。
Gマーク認定を受けていない営業所であっても、一定のシステム要件と施設要件を満たし、運輸支局に届け出れば実施可能です。これにより、中堅・中小事業者でも一気にデジタル化の恩恵を受けられるようになりました。
また遠隔点呼は、営業所以外の場所、例えばドライバーの宿泊先やフェリー内、遠隔地の駐車場などなど、スマホやタブレットのカメラを通じて、どこにいても対面と同等の精度で点呼が行える点で優れています。
ただし自由度が高い反面、求められるスペックはIT点呼よりもシビアです。使用するカメラの解像度、アルコール検知器のリアルタイム連動、さらには点呼を行う場所の明るさや周囲の雑音に至るまで、細かな施設要件をクリアし、事前に承認を得る必要があります。

現在、多くの事業者が2つを併用するハイブリッド型の運用を選択しています。
日々の拠点間連携は従来のIT点呼で行い、長距離輸送の際の宿泊先点呼や、より高度なセキュリティが求められる場面では遠隔点呼の仕組みを利用するという形です。

重要なのは、これらの制度を導入することで、管理者の移動という無駄なコストが消えることです。車庫まで片道30分かけて点呼に行っていた時間が、ボタン一つで解決する。この劇的な変化を支えるのが、IT点呼と遠隔点呼という二つの制度なのです。

3. 現場を救う3つのメリット
① 運行管理者の働き方改革の実現
最大のメリットは、管理者の拘束時間削減です。複数の営業所の点呼を1箇所に集約(共同点呼)することで、深夜・早朝の当番制を廃止したり、テレワークでの点呼業務を検討したりすることが可能になります。

② 人的ミスの排除とエビデンスの自動化
アナログな点呼では「顔色が悪いように見えたが、記録し忘れた」「アルコールチェックの結果を台帳に書き写し間違えた」といったミスが起こりがちです。IT・遠隔点呼システムでは、カメラによる本人確認、アルコール検知器とのデータ連動、点呼風景の自動録画がセットになっているため、改ざん不能な証拠が自動で蓄積されます。

③ なりすましや不正の物理的遮断
高性能なシステムでは、静脈認証や顔認証技術を組み合わせています。これにより、第三者が身代わりにチェックを受けるといった不正を物理的に防ぐことができ、営業所全体のコンプライアンスレベルを底上げします。

遠隔点呼は非常に便利な仕組みですが、その導入には国土交通省が定める厳しい要件を満たす必要があります。
○カメラ・モニターの精度: ドライバーの顔の表情、光彩、血色、さらには酒気帯びの有無を確認できるほど鮮明であること。
○アルコール検知器の連動: 検知結果がリアルタイムで管理者の画面に表示され、写真とともに保存されること。
○通信の安定性: 途中で音声や映像が途切れない専用の通信環境。

4. 今後のトレンド
IT点呼や遠隔点呼の普及が進んだ先にあるのが、点呼の完全自動化という新たなフェーズです。2024年以降、国土交通省は実証実験を経て、特定の条件下において「運行管理者が立ち会わない点呼」を段階的に認めています。

現在導入が最も加速しているのが、帰庫時の自動点呼です。長距離配送を終えて深夜に帰庫したドライバーは、事務所に誰もいなくても、専用の点呼ロボットやタブレット端末の前に立つだけで業務を完了できます。
システムは顔認証で本人を確認し、アルコール検知器の結果を取り込み、クラウド上の運行データと照合して「異常なし」と判断すれば、そのまま点呼記録を生成します。管理者は翌朝、出勤後にクラウドに保存されたログを確認するだけで済み、深夜の待機という過酷な業務から解放されます。
また、合わせて見逃せないのが、AIによるバイタルデータの解析技術です。
単に酒気を帯びていないかを確認するだけでなく、カメラ映像からドライバーの瞬き、視線の動き、声のトーン、表情の微細な変化をAIがリアルタイムで分析します。
「いつもより反応が遅い」「疲労の色が見える」といった、人間でも見落としがちな主観的な変化を、蓄積されたビッグデータに基づいて数値化し、客観的な疲労スコアとして算出するようなサービスも出てきました。

さらに、すべての点呼データがクラウドで一元管理されるようになったことで、企業間での共同点呼も現実味を帯びています。
自社で深夜対応が難しい場合、24時間稼働しているパートナー企業や専門の点呼センターに業務を委託する。あるいは、グループ企業内で点呼シェアリングを行う。こうした柔軟な運用は、IT・遠隔点呼という下地があってこそ成立するものです。
すでにそうした業務を専門的に行う企業も出てきています。

ただし、自動点呼やAI活用が進む一方で、勘違いしてはならないのは管理者の責任がなくなるわけではないという点です。
AIが異常を検知した際、最終的に乗務を差し止める判断を下すのは、やはり人間である運行管理者の役割です。
これからの運行管理者に求められてくるのは、単なる点呼の立ち会いという作業ではなく、システムが弾き出したデータを読み解き、的確な指示を出す安全コンサルタントとしての能力です。

点呼は対面でなければならないという常識は、テクノロジーによって対面と同等、あるいはそれ以上の精度をデジタルで確保するという新しい常識に書き換えられました。
自社の規模やGマークの有無に合わせて、どの制度が最適なのか。まずは機器メーカーのデモンストレーションなどを通じて体感してみることから始めてみてはいかがでしょうか。

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